クルマって面白い-運転技術について考える-
第2回 クルマが動く根本原理
クルマは、キーを捻ればエンジンがかかり、アクセルを踏めば走り、ブレーキを踏めば止まり、ハンドルを切れば曲る。至極当たり前であるが、その原理や相互関係について深く考えたことがあるだろうか? 知っているだけで普段の運転でも得をすることが、実はたくさんあるのだ。少し退屈な話をしてみようと思う。
エンジンは、シリンダー内で気化させたガソリンと空気の混合物を、プラグで点火して爆発させることによって、ピストンを上下させる。簡単に説明すれば、こんな感じだ。
ピストンの上下は、いわゆる「レシプロ運動」と呼ばれる縦の動きのことだ。しかし、これではクルマは動かない。ピストンと連結されたカム・シャフトを回転させることによって、縦の動きを「回転運動」に変える。これが始まりだ。ここから複雑な機構を介して、力を地面に伝えるのだ。
カム・シャフトによって回転運動に変えられた力は、FFならばフロント・ディファレンシャル(いわゆるデフと呼ばれる)を介して左右に振り分け、タイヤへ伝える。FRの場合は長いプロペラ・シャフトでリア・デフまで力を運び、リア・デフによって左右のタイヤへ振り分ける。4WDならば、フロント・デフで前輪へ、センター・デフ(ない場合もある)、プロペラ・シャフト、リア・デフを介して後輪へ力が伝わる。
エンジンを出た力は、進行方向に対して垂直の向きに働いている。これではクルマは動かない。その力を左右に振り分けると共に、進行方向と同じ向きに変換するのが「デフ」の役目だ。デフにはさらにコーナリングの際、左右のタイヤの回転バランス(内輪を少なく、外輪を多く)をとり、クルマがスムーズに曲るようにするという役目も持っている。
しかし、このデフの役割には限界がある。そこでデフには、近年別の役割も与えられている。いわゆる「LSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)」だ。教習所の学科でも習うのだが、一般のデフは、コーナリングその他の理由で片輪(大抵は内側)が浮き気味あるいは浮いてしまうと、そこから力が逃げてしまうのだ。そのため推進力を失ったクルマは、コントロールが極めて不安定になってしまう。そこでLSDを装着することによって、片輪が浮いて力がロスし始めると、自動的に強制的に左右のタイヤへ等分の力の分配を行うのだ。
4WD車に装着されるセンター・デフは、力の向きを変換するのではなく、前後のタイヤにかかる力の分配をするために装着する。左右で起こる力のロスと同じことが前後のタイヤの間でも起こるから、それを効率的に分配するのだ。
LSDの原理を簡単に理解するのに便利なのが、冬の時期だ。片側のタイヤをアスファルトの上に、もう片方を氷の上に置く形で停車する。やや強めにアクセルを踏むと、タイヤは氷に乗った側しか回らず、前に進むことはできない。氷が、タイヤが浮いているのと同じ現象を生むのだ。LSD装着車であれば、何の問題もなくクリアできる。
デフによって振り分けられ向きを変えられた力は、ドライヴ・シャフトを介してタイヤへ伝わる。タイヤへ伝わった力は、最後に地面との摩擦の力に変換され、クルマが動く力になる。ここまできてやっと車は動き出すのである。
次に止まることを考えてみよう。
トラックなどの一部の車両を除くと、クルマのブレーキは油圧だ。これに応用されている理論というのが、小学生の頃学んだ「パスカルの原理」だ。ここでは、パスカルの原理への言及は控えるが、要は小さな力(ブレーキを踏む力)で大きな力(車を止める力)を生み出すことができるということだ。
こうして生み出された力は、前後の車輪に付けられたブレーキ・システムへ伝えられ、摩擦の力に変換される。それが車輪、タイヤを介して地面に伝えられ、そこでも地面との摩擦抵抗で止まる力となるのだ。
ここでブレーキ・システムを見てみよう。
代表的なのが「ドラム・ブレーキ」だ。筒状になった本体の内側から、プレーキ・パッドを押し付けるようにして摩擦抵抗を発生させるシステムだ。機構的に単純で、大きな力を発生させることができるが、筒状という形状のため、熱が溜まりやすく、性能を維持することが難しいというデメリットがある。
現在では標準的なブレーキ・システムとなったのが「ディスク・ブレーキ」だ。皿状の板を車輪に固定し、その板を挟み込むようにパッドを押し付けることによって摩擦抵抗を発生させるシステムだ。ディスクがオープンになっているため、熱にはきわめて強いというメリットがある反面、水や埃など外的要因の影響が性能維持に大きく影響するという、オープンの弱点も併せ持っている。
次に曲ることを考えてみよう。
単純な原理は、子供が乗る「ゴーカート」などと大差はない。微妙で滑らかに作動するよう、歯車や油圧機構を介して前輪を制御できるようになっている。「ラック・アンド・ピニオン」という方式が一般的で、要は左右の前輪を繋ぐ横棒(歯車の刻み目入り)に対して、ハンドルからくる歯車を組み合わせて前輪を制御するのだ。梃子の原理を利用するとはいえ、ハンドルの直径と歯車の直径を考えれば、人間側の負担は大きい。現在では、油圧によるパワー・アシストが標準となっている。
以上が車が動く基本的な知識だが、今度はもう少しマクロな視点で見てみよう。
クルマの歴史は結構長いのだが、システムとしては結構ロスが多い。エンジンで発生した力を100%地面に伝えることはできないのだ。エンジンからタイヤまでの間に様々な機構を介しているから、その機構同志のジョイント部分だけでもロスが発生する。さらには、タイヤを除いてすべてが宙に浮いた状態であるということが、力をロスさせる最大の原因だ。
宙に浮いたクルマを支えているのは、いうまでもなくサスペンションだ。サスペンション・システムは、ダンパーとスプリングからなっている。路面の凹凸に追従するために伸び縮みするサスだが、伸び縮みさせているのがスプリングだ。スプリングだけのサスペンションでは、路面からの衝撃を受けた際、いつまでも車体は弾んでしまう。これを抑え、短い時間でクルマを安定させるのがダンパーだ。
ダンパーはオイルあるいはエアをシリンダーに封入し、ピストンの動きに抵抗を与えることによって、クルマの動きを速やかに治める働きをする。コイルとコンビで使うことによって、衝撃を吸収し、クルマの姿勢を常に安定した状態に保つのだ。人間の側から見れば、乗り心地を良くするということだ。
次に、クルマの各部品をクルマ本体に取り付ける際、振動や騒音、その他の理由で、部品と本体の間にゴム製の緩衝材(ブッシュ)を入れる。ゴムであるから、当然伸び縮みや歪みが発生する。このブッシュは、ほとんどのジョイント部分(前後のサスペンション周り、エンジン、ミッション周り、デフ、マフラーなど)に使用されているから、クルマの動きには大きな影響力を持っている。
高い精度を要求される競技車両などでは、ブッシュの替わりにベアリング(ピロボール・ジョイント)を使用しているが、可動部分の衝撃をモロに伝えてしまうため、乗り心地も悪いが、クルマの寿命も縮めることになる。
やっと前置きが終わった。これらサスペンションやブッシュは、人間の乗り心地やクルマ本体への衝撃を吸収するのであるが、これがクルマの力を伝えることについては、デメリットにもなっているのだ。詳しく見ていこう。
クルマを動かすための一連の動作の中で、先ずエンジンがレシプロから回転に力を変換するところで、既にロスは始まっている。回転運動に変換が行われているとき、エンジンはかなりの力で捻れている。エンジン・ルームを覗きながらエンジンを吹かしてみれば分かるが、ギュッとエンジンが傾くのが分かる。ブッシュが歪んでエンジンが傾き切らないと、回転運動に変換された力は伝わらないのだ。
エンジンを出た力は、それぞれの機構を介して進んで行く。その際、それぞれの機構のブッシュが歪み、力をロスしていく。さらにはほとんどの機構が歯車を主体とした構造だから、そこでもロスが生じる(100%ピッタリと合った歯車はない)し、冷却と潤滑を目的としたオイルも抵抗となる。
こうしてロスしながら進んできた力がタイヤへ伝わり、いよいよ地面に力がかかる。ところがここでもロスが生じてくる。サスペンションだ。タイヤへ力が加わった瞬間、クルマは前に進もうとするが、その前にサスペンション(主にリア側)が沈む。伝えられた力の分だけ沈むから、急発進しようとすればするほどサスペンションは沈んでいく。サスペンションが沈み切るとタイヤ(主にリア側)が扁平し、扁平し切るとやっと車は前に進む。
このようなロスは、止まるときにも、曲るときにも発生する。ブレーキを踏めば、先ずはブレーキ・ホースが膨張する。ブレーキ・システムが作動しても、やはりサスペンションが沈み切り、タイヤが扁平し切らないと、クルマが止まるための力は地面に伝わらないのだ。曲るときも、主に外側のサスペンションとタイヤの収縮と扁平がロスの原因となっている。
こうして見てくると、タイヤの重要性というのが浮き彫りになってくる。それもそのはずで、クルマの部品の中では、唯一地面と接しているのである。一般のクルマに標準的に装着されているタイヤで、一本あたり約ハガキ1枚分の面積しか接していないのだが、その役割は非常に重要である。
タイヤの幅が広ければ、接地面積は増えるが走行抵抗は増える。扁平率が高ければ、力のロスは大きいが乗り心地は良くなる。どのような条件のタイヤでも一長一短で、一概にこれがベスト! というべきものはない。また、溝の本数や深さによってもタイヤの持つ特性が変化するから、同じ太さや扁平率でも使用感や性能が違ってくる。
競技の世界では、現在マシン自体の性能やドライヴァーのテクニックに大差はないといわれている。そこで差がつくのは、タイヤの選択が非常に大きな原因となっている。ことほど左様にタイヤの役割は大きいのである。
ここまで進んでくると、勘の良い人ならば気付いているだろう。クルマとは、トータルバランスが物言う器械なのだ。エンジンが高性能でも、サスペンションやタイヤの性能がそれに見合ったものでなければ、エンジンの性能を発揮することはできない。タイヤだけがずば抜けて高性能だと、かえってクルマその物の性能を殺してしまいかねない。
しかし、器械その物があっても、それを操る人間の技術が劣っていれば、性能を発揮させることが不可能なばかりか危険ですらある。次回からは、やっと運転技術の話に入ることになる。
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