■Jaco Pastoriusについての考察 2000.10.12


1951.12.1 誕生
1964 当初ドラムスをプレイしていたが、フットボール際、手首を骨折。後遺症によりベースに転向。
1975 衝撃のデビュー作「Jaco Pastorius」発表
1976 ウェザーリポート参加
1981 2枚目ソロ「Word of Mouth」発表
1982 Word of Mouth Big Bandでのライブ版、「Twins」発表
1987.9.21 フロリダにて死去

わずか36年の間に、現代大衆音楽に大きな衝撃を残してこの世を去った親愛なるジャコ。彼についての私的な思いを語ってみようと思う。

ジャコとの出会いは、私が中学校のころに遡る。当時はNHKで良質な音楽番組が数多く組まれていた。来日するアーティストのライブを放送していたのである。その中でウェザーリポートのライブを見て、ジャコのプレイに大きな衝撃を受けた。

受けた衝撃は大きかったが、まだまだ音楽的にもプレイヤーとしても未熟だった私には、その大きさを正確に受け止めることはできなかった。この歳で音楽をやっている者のほとんどがそうであるが、楽器を始める理由の大半は「女にモテたい」「注目を浴びたい」であろう。私もそうであった。このときのジャコとの出会いが、ベースという楽器が自分の想像よりも遥かに「目立つ」ことができる……ということを本格的に意識するキッカケとなった。

次にジャコを意識したのは、高校生になってからだ。Word of Mouth Big Bandでの来日を、やはりNHKで見たときである。そこからはかなり本格的に研究するようになった。

今では一般的になり、ほとんどの楽器メーカーでも製品化されているが、当時は「フレットレス」という概念がなかった。画像では確かにエレクトリック・ベースを弾いているにもかかわらず、ウッドベースのような音色が出ることに釈然としないものを感じた。その後、フレットをネックから抜くことによって、ウッドベース・ライクな音を出せるということ、ジャコも自分でフレットを抜いたということを知るに至って、私もそれを実行したことは言うまでもない(その後の処理を怠ったため、2年もしないうちにベースはオシャカになったが……)。

フレットレスという概念のほかに衝撃的だったのは、ギターのようなスピードで弾かれるソロであった。今となっては、彼と同じかそれ以上に速く弾くプレイヤーはアマチュアの世界でもたくさんいるのが当たり前なのが分かっているが、当時は本当に衝撃的だった。浪人時代を中心に速く弾くことに熱中した。

しかし、本当にジャコが偉大であるのは、速く弾くことではなく楽器を歌わせることであるのが分かるようになるのは、大学で多くのミュージシャンの演奏を聴き、音楽理論を多少なりとも理解してからのことであった。

大学に進みジャズ研に入部してからは、見聞を広げ、理論を身に付けたおかげで、音楽に対するアプローチが変わった。曲の構成やソロの展開が読めるようになり、どこかで聞いたことがあるな……というフレーズが多くなってきた。そういった守備範囲の広がりを持ってしても、ジャコのソロは新鮮かつ難解であった。

彼のソロは、私の低い理解力と乏しい知識・経験から分析するに、三つのアプローチをしているように感じられる。

一つ目は、キーボード(ピアノのような鍵盤楽器)や管楽器、ベース以外の弦楽器(要はギター)で考えられたフレーズだ。彼はインタヴューでも語っているが、大抵の楽器は手に取った瞬間から演奏できるという。その特技から、様々な楽器を演奏することによって作られたフレーズがソロに織り込まれる。

衝撃のデヴュー・アルバム「Jaco Pastorius」の一曲目、これまた衝撃のソロ演奏、チャーリー・パーカーの「Donna Lee」では、サックスなどのホーン・ライクなフレーズのオンパレードだ。明らかに指使いが苦しいと思われるようなフレーズも指の長さでカヴァーしている。

ウェザーリポートの「Night Passage」に収められている「Port of entry」。この曲のソロではキーボード的フレーズが詰まっている。流れるような、そして非常にメロディアスなフレーズだ。

二つ目は、難解の極み。譜面からの視覚的アプローチだ。これはウェザーのジョー・ザビヌルからの影響と思われる。譜面を見てソロやリフなどは、きれいな波型を描いていることが望ましい。2小節、4小節、8小節単位でフレーズに大きなウネリを作る。大きな波の中に(例えば、4小節で1回の上下)小さな波(1小節に2回あるいは4回の波など)を作ったりと、譜面の上でソロを考えるのだ。

三つ目は、上記二つのアプローチによって作られたフレーズの「繋ぎ」的に使われる、彼のいわゆる「手癖」である。ブラック・コンテンポラリー(ソウルやファンク)やロック、カリブ音楽の影響を強く受けた非常にカッコいいフレーズが多い。

どちらかというと、この手癖フレーズはライブでのソロに多いが、特にそれが顕著に見られるのがウェザーのライブ盤「8:30」での「Slang」だ。ここではソウルやファンクの名曲のバッキング・フレーズやジミ・ヘンドリックスのフレーズまでが飛び出す、まさに技の玉手箱といった感じだ。

そして彼が切り開いたといっても過言ではないテクニックに「ハーモニクス奏法」がある。彼はこのテクニックを習得するために、ヴァイオリンの教則本を勉強したらしい。これは、左指を弦に軽く触れた状態で弾くことによって倍音やそれ以上の音を出す方法だ。基本的な考え方は、弦をニ分割、四分割、八分割するポイントでハーモニクス音を出すことができる。解放弦状態でのナチュラル・ハーモニクス、左右の手を使っての人工ハーモニクス(左手でポジショニングし、右手で分割する)の2種類を使い分ける。

ジャコの場合、単音ではなく複数の弦で同時に鳴らすことによって、コードを鳴らす。このテクニックによって、通常のコード奏法と比べてよりクリアーな音色でコードを表現できる。

デヴュー・アルバム「Jaco Pastorius」には、一曲まるごとハーモニクスという「Potrait of Tracy」がある。また、ウェザーの大ヒット曲「Birdland」では、テーマ部分で効果的なハーモニクスによるリードをとっている。

ジャコの音楽的センスは、プレイヤーとしてだけでなく、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーとしても発揮されている。

今やスタンダードとなった「Three views of a secret」や美しく流れるような「Continuum」、テクニック爆発の「Teen Town」、スウィング感抜群の「Liberty City」など傑作と呼ぶに相応しい曲がいくつもある。

disk reviewでも触れているが、ジョニ・ミッチェルの曲でのホーン・アレンジメント、自己のビッグ・バンドのアレンジメントは、一介のミュージシャンの領域を遥かに越えている。

ウェザーリポート在籍中、最年少メンバーにもかかわらず、彼が参加したウェザーのアルバムにはすべてプロデューサーに彼の名前がクレジットされている。このバンドはリーダー、ジョー・ザビヌルの独裁といわれていたのにである。その後のソロ・アルバム第二弾「Word of Mouth」などでも、彼の才能は十分に発揮されている。

このような才能に溢れた天才も、いつしか酒とドラッグに浸るようになる。様々な憶測の域を脱しない噂を聞くが、私はその中でもジャコが自らに妥協を許さない真面目な性格の天才だったという説を信じたい。

自らが思い描くパフォーマンスと実際のそれとの間には、必ずといっていいほどギャップがある。ジャコにはそれが許せなかったのだ。しかし、観衆は彼のプレイ(たとえ彼の満足できないものであったとしても)に熱狂する。観衆の期待とそれに応えられないプレッシャーに彼は負けたのだと思う。

ジャコのプレイ(たとえ彼の満足できないものであったとしても)は、素晴らしかった。彼の求めるパフォーマンスは、私のような者の想像を遥かに凌駕するレヴェルで実現されるべき物だったのだろう。

真面目であるがゆえに、完全主義に陥り、結局は最も安易な方法で逃避した。哀しいかぎりな話しである。しかし、ジャコが残した音楽やテクニックは現在活躍中のミュージシャンたちに受け継がれ、昇華されていくだろう。また、彼の残した音源は、これからも私を楽しませ、嫉妬させ、ノックアウトしてくれるだろう。

彼の残したすべての物に、限りないラヴ・コールを送る。


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