酒とタバコとドラッグと……
マイルス・デイヴィス(tp)の自伝を読むと、彼が若い頃、彼の周辺のミュージシャンで酒・タバコ・ドラッグをやっていなかった者はいなかったようである。演奏の前にアルコールとドラッグで勢いをつけ、演奏中には酒とタバコを吸引し、演奏後は再び酒とドラッグに浸る。こういった生活の繰り返しであったらしい。ミュージシャン連中のステイタスであったのだろう。
バードことチャーリー・パーカー(as)も、これらが原因で死期を早めたことは有名だ。逸話の中には、愛用のアルト・サックスを昼のうちに質屋へ入れてしまい、その金で酒とドラッグを買う。夕方、ディジー・ガレスピー(tp)やマイルスら、演奏仲間が彼を呼びに行くと、グデングデンになったバードがいる。仕方が無いので、仲間が金を出し合って、質屋から楽器を取り戻してくる。演奏が始まると別人の如く変わるバード。しかし、ギャラは再び酒とドラッグへ。
’60年代初頭のマイルス・バンド(ジョン・コルトレーンts、ビル・エヴァンスp、ポール・チェンバースb、フィリー・ジョー・ジョーンズds)の演奏を観ているとその当時の様子がかなり良く分かる。一曲の中で、ベースとドラムスを除けば、自分のソロが終わった途端、ピアノの上に置いてある灰皿へ直行するというのがフロントメンの行動なのだ。
なんとも虚しい話だが、こうした現実と忘却の狭間でこそすばらしい演奏やすばらしい曲が生まれるのかもしれない……などと思うこともある。’50年代から’70年代にかけては、いわゆるアーティストと呼ばれる人々が競って? ドラッグを創作の原動力としていたような時代だ。ビートルズ然り、レッド・ツセッペリン然り。マイルスやソニー・ロリンズ(ts)は奇跡的にドラッグから立ち直り、見事に更生した数少ないミュージシャンたちで、そのおかげで長生きできたのだ。
日本のミュージシャンや芸能界では、現在でもドラッグが蔓延しているが、アメリカのジャズ界ではどうだろうか?
菜食主義者のオマー・ハキム(ds)、ジム通いが趣味のデイヴ・ウェックル、ジャコ(b)とともにドラッグにハマったが、見事に立ち直りその後すべての誘惑と縁を切ったマイク・スターン(g)などなど。まったくそういった噂の無いミュージシャンが多くなってきた。非常に健康的かつ清潔なイメージに変わりつつある。その分、演奏の中での「緊張感」みたいなものが希薄になったような気もするのだか……。
早死にと引き換えに酒とタバコとドラッグに浸ることによって、剃刀の如く研ぎ澄まされた演奏をするか? 多少没個性でも息の長い演奏活動をするか? ミュージシャン本人にとっては寿命との勝負だから真剣だが、聴く方の側から言わせてもらえば、命を削った壮絶な演奏を期待する。
虫の良い話である。
-もどる-