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いつもの週末


 午後六時三十分、終業のチャイムと同時に会社を出た。金曜日だったが、特に誰かと会う予定もなく、これからの長い夜をどう過ごそうかと思案しながらエレベータに乗った。何の当てもないまま、歩いて新橋まで出た。最初に目に入った赤提灯に入った。

 店は早い時間でまだ空いていた。カウンターの端に座って、ハツ、ねぎま、軟骨と生ビールを頼んだ。生ビールは少し冷えすぎの感がなくもなかったが、大して気にならなかった。マイルド・セブンに火をつけた。

 会社で、向かいに座っている野崎幸枝のことが突然脳裏に浮かんだ。

 幸枝は派手な化粧と肉感的な体つきの、男好きのする女子社員だ。入社三年目の二十三歳。仕事はまったくできないが、社員の誰と関係しているという噂は頻繁に耳にする。

 舌足らずな、教養をまったく感じさせない話し方で、誰にでも気軽に話しかける。何度か酒の席で隣り合わせたことがあるが、人の肩や腿に手を置き、こちらに凭れ掛かるように話されると、クリスチャン・ディオールのポワゾンと相俟って、涌き上がる性的な衝動を抑えるのに苦労した。

 想像の上で幸枝を犯す、という遊びにしばらく熱中した。想像の中で幸枝は、見事な裸体をくねらせ、こちらの要求をすべて、喜んで受け入れた。

 その間に生ビールを二杯、レバーと砂肝、つくねを追加で注文した。多分、顔は上気し、不自然に捻じ曲がっていることだろう。股間はすでに熱く滾っている。

 股間の疼きをどうにも抑えることができずに、店を出てタクシーを吉原まで飛ばした。いつも行く店とは別の店に行き、指名なしで入った。出てきた女は、当然のことながら幸枝とは似ても似つかない女であったが、そこそこきれいな女であった。

 時間内に抑えに抑えていた衝動を二度、爆発させた。

 花火の後の虚しさ。

 自分は一体何をしているのか? 耐えがたい空虚感に抵抗するには酒に限る。再び新橋に戻って、バーに入る。

 酒棚に並んでいるバーボンを端から注文していく。ジム・ビーム、I.W.ハーパー、アーリー・タイムス、ワイルド・ターキー、オールド・エズラ、エヴァン・ウィリアムス…。すべてストレートで飲んだ。ジャック・ダニエルズはテネシー産だから飲まなかった。

 注文が二周目に入る頃にはかなりの酔いを感じていた。

 気がつくと歌舞伎町をふらふらと歩いていた。バーボンの注文が三周目に入ったところまでは覚えているが、その後のことはまったく覚えていない。

 時刻は間もなく午前四時になろうとしている。さすがに歌舞伎町も人の数が減ってきた。自動販売機で缶コーヒーを買った。アルタの前のガードレールに腰掛け、マイルド・セブンに火をつけた。冷たい缶コーヒーが美味い。

 白々と明け始めた空が、不意に明るくなった。

 見上げると、巨大な火の玉が降ってくるところだった。周りの連中も空を見上げて大騒ぎしている。ガードレールに腰掛けたまま、一週間ほど前にニュースで巨大隕石の接近が伝えられていたのを思い出した。衝突するはずもない、と思っていたのだが、どうやら衝突するらしい。

 まぁ、最後に一発抜けたし、好きな酒も飲めたし、ここで死ぬのもいいかと考えたところで、熱さで何も考えられなくなった。植え込みが燃えだし、自分の衣服にも火がついたところで視界が真っ暗になった。


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