■世界との実力差 2000.10.11
モータースポーツの世界を見渡してみると、エンジンやパーツなどいわゆるハードウェアの優秀性は、世界を席巻している。ところがライダーやドライヴァーといったソフトウェアでは、世界に程遠いところにいる。二輪の世界では、過去の片山選手を筆頭に何人ものワールド・クラスのライダーを輩出し、現在でもトップライダーの中にその名を連ねている選手が何人もいる。
それに比べると、四輪の世界ではお寒い限りだ。テレビ等でも頻繁に放送されているF1をはじめ、レース界では日本製のエンジンやマシンは何度も表彰台の中央に登るが、ドライヴァーがそこに立つことはほとんど皆無といっていい。
私の得意分野であるラリーの世界を見てみよう。WRC(世界ラリー選手権)で常に上位を独占しているのは、スバル、ミツビシ、トヨタなど日本車ばかりだ。そこにプジョーやフォードが食い込む。ドライヴァーは、圧倒的に北欧人が強い。そこにラテンとイギリス人が数人という状態だ。日本人ではラリー・レイド(パリ-ダカール・ラリーなど)で有名な篠塚健次郎くらいだろう。
今年は少し違った様相を呈している。第11戦終了時点でマニュファクチャラーズ・ポイントでは、プジョー、フォードが上位独占、ドライヴァーズ・ポイントでは1位フォード、2位スバルとなっている。これは、プジョー、フォードのニュー・マシンが熟成されてきたことを示しており、日本車勢は来年あたりニュー・マシンを投入する噂がある。
さて、自転車の世界でもモータースポーツと同様のことが展開している。最も重要な部分であるフレームに関しては、世界的なメーカーが合衆国にもヨーロッパにもあるが、駆動系や制動系などの重要部分のパーツにおいては、日本のシマノの製品が世界標準となっている。ライダーの間でもシマノ・ファンが多く、プロトタイプのテストライダーを自ら買って出るライダーが何人もいる。
日本人ライダーの世界での位置付けはどうか? 世界レベルからは程遠いというのが実情だ。最近の結果で見てみよう。
7月に新潟県のアライで行われたワールドカップ。ダウンヒルでは、男女ともトップから20秒以上離されてしまっている。地元での成績でこれだから、世界を転戦するワールドカップの中では、かなりヤバい。先日のオリンピックでのクロスカントリーでは男子が34位/39人中、女子が26位/29人中、どちらも周回遅れという結果であった。
どうしてこんなに差が開いてしまうのか?
1.選手層の違い
合衆国、ヨーロッパ、オーストラリアといった国々は、競技人口を含めた自転車人口が日本とは比べ物にならないくらい多い。文化的に自転車が移動手段以上の物として定着している。老若男女様々な人々がレクリエーション、スポーツ、職業として自転車に深く関わりを持っている。
こういった国々の街角(オフィス街なども含む)には、自転車を止めておく金属製の構造物(盗難防止のためにチェイン錠などで固定するための物)をたくさん目にする。映画公開で話題になったバイシクル・メッセンジャーという文化もこういった背景から生まれている。
レース関係にしても、アマチュア・レヴェルの草レースからワールドクラスのプロフェッショナル・レースまで様々なでカテゴリーで、数多くのレースが開催されている。そんな中から才能を発揮した者が徐々にステップアップしていき、その頂点に一握りのプロフェッショナルがいるのだ。
日本では、レースに出るような自転車好きといえば、オタク的存在となると思う。絶対数として自転車人口が少ないのだ。通勤・通学・お買い物にいわゆるママチャリと呼ばれる自転車を使う方々は多いが、そういった方々の人数は層の中には含まない。
ここ数年、ワールドカップを日本に招致したりして、自転車人口が増加しつつあることは嬉しい限りだが、実際問題の話しとしてはまだまだメジャー級のスポーツとは言い難い。日本で自転車競技といえば「競輪」というイメージがまだまだ根強い。そういったイメージの払拭と明るい宣伝活動が今後の課題となるだろう。
2.パワーの違い
自転車以外の様々な競技でも語られることだが、世界との差は歴然としている。日本のトップライダーYansこと柳原選手の日記(www.yans.com)を見ても、外国選手の加速はすごいらしい。圧倒的なパワーの差がよく分かる。
体格の違いを見てもそれは如実に現れている。外国人選手が180cm以上、80kg近くが平均サイズだとすると、日本人ライダーは170cm、65kgが平均か? 日本製のサスペンションの出荷時の設定は「日本人の平均的体重を元にセッティングしてある」と歌われている。これは65kgを標準にしているらしい。外国製のサスペンションには、オプションで「ソフト・スプリング」が用意されるのが、日本市場では常識となっている。
自転車雑誌などに掲載されている外国人選手の上半身(彼らはよく裸になりたがる)を見ると、実にバランスの取れた良い体をしている。ヴォルヴォ・キャノンデールのブライアン・ロープス(アメリカ)など、力強さとしなやかさを兼ね備えたベストな体だ。特にダウンヒルやデュアル競技は全身でバランスを保ちながらときには力でバイクを抑えつけ、全身で漕ぐため、強靭な肉体と耐久力が必要なのだ。
ワールドカップで優勝経験のあるシンテシーのコラード・エリン(イタリア)のように、小柄な選手が勝てないというわけではない。しかし、彼の普段の職業が消防士であるということは、相当鍛え込まれた肉体の持ち主であることを裏付けている。
3.キレ具合の違い
エクストリーム・スポーツという言葉が使われるようになって久しいが、extremeとは「極端な」とか「過激な」を意味する。スノーボードやサーフィン、BMX(レースは除く)といったものが代表的だが、ダウンヒル系競技の選手にはこのエクストリーム系からの転向者が多い。
要するに恐い物知らず、頭のネジが何本か足りないヤツといったキレた人間の集まりなのだ。この点でも日本は世界レヴェルで置いて行かれているように思う。
社会的成熟度の違いから、外国では過激な行為をする者に対して寛容だ。
野田知祐氏の著書で知られるカナダのユーコン川をカヌーで下るということを例にとってみると、毎年この川では何人もの死人が出ている。これが日本であったなら、即座に「カヌーでの川下り禁止」という看板が立てられるだろう。日本の沿岸をカヌーで一周しようという行為をある外国人が敢行しようとしたところ、海上保安庁に禁止されたそうだ。
外国で同じようなことをしようとしたとき、海上保安庁や林野庁、建設省に当る機関は、気を付けるべきポイントや危険地帯をアドヴァイスしてくれるという。地図のサーヴィスや荷物の保管、車の回送なども行ってくれる場合すらある。
外国では、生きるも死ぬも本人の責任において判断できるのだ。「平均的なお利口さん」作りに励む日本の学校教育からは、世界最強のダウンヒラーは生まれそうもない。
などと悲観的な話しばかりになってしまった。いつの日か日本から世界のスーパースターが現れることを願いつつ、おしまい。
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