日進月歩の技術とフィードバック 2001.7.3
レース活動からのフィードバックというと、真っ先に思い浮かぶのがモータースポーツだ。サスペンションを中心に駆動系の制御やハンドリングの制御、ブレーキ・システム、水噴射による冷却システムなどなど。特にツーリングカーやラリーなど、市場に流通している製品をベースにしているカテゴリーは、まさに商品開発と直結した部分だろう。
これに比べると、F1などのいわゆるレース専用車両を使って行われるモータースポーツは、開発というよりは「実験」に近いと思う。ワン・オフ(誂え物、一発物)で作られた物が多く、極限まで軽量化されているため、目が飛び出るほど効果であるにもかかわらず、耐久性は大したことがない(一レース保てばいいという考え方)という部品や機構が多いのも特徴的だ。
車の世界でのフィードバックは、速度や重量を考えても、人間の命の安全性と直接関わるから、製品化までには非常に長いテスト期間を要する。また、利用者の最大公約数も非常に大きくなるから、車その物を扱う技術水準の最大公約数は、非常に低いレヴェルに設定せざるを得ない。そうなると、高いレヴェルで本来のパフォーマンスを実現可能なパーツ群も、必要ない場合が少ない。
前出の水噴射によるインタークーラーの冷却システムは、ラリーのように「エンジン回転と平均速度」が反比例するような状態で効果を発揮する。要は高回転でエンジンが回りつづけるが、平均スピードはレースと比べるとずっと低い。したがって、ボディ前面に受ける風の量が不足するような状況で、強制的に冷却する必要が生じるのだ。一般人が必要とするシステムではない。
しかし、現在ではそういったスペックが雑誌などで発表されてしまうから、一般ユーザの知識は必要以上に多くなっている。要不要に関わらず、ユーザはカッコや機能が優先だから、要求だけはすさまじい。メイカーも売れることが優先されるから、要不要に関わらず、要望があれば取り入れてしまう。4WS、四輪アクティヴ制御、アクティヴ・サスペンションなどは、一般ユーザにはまったく必要の無かった機能だろう。これらの機能など、技術の未熟さ稚拙さをカヴァーするためのもに成り下がっている。
目を転じて、自転車の世界ではどうだろうか?
現在、自転車業界が最も技術革新とフィードバックのスピードが速いのではないだろうか? 前年に走っていたプロトタイプが、次の年にはマーケットに出回っている、という図式がここ数年続いている。MTBがブームになり、アマチュアを含めた競技人口が爆発的に広がったことが原因だと思われる。人間を含めても、ほぼ100kg以下の重量しかないから、強度の面でもモータリゼーションと比べればはるかに手を抜ける(言い方は悪いが……)のである。
軽さと強度の両立は、どの業界にとっても究極のテーマである。自転車のフレームを例に考えてみると、少し前まではクローム・モリブデン鋼を使った物が主流であった。重量面では難があるため、極限まで細くされたフレームは芸術的ですらある。また、特有の「撓り」がフレームを細くしても強度を損なわない。次に現れたのはアルミニウムだ。現在でも主流を占める素材だが、軽さは抜群だが、撓りがないためにフレームを太くせざるを得なかった。これが一つの「ファッション」となり、極太フレームはいまや当たり前となった。
現在、新素材として注目を集めているのが、チタンとカーボンだ。航空機にも使われるチタンは、軽さと強度の点で、現在考えられる究極の金属だろう。カーボンは軽さと強度両立しつつ、流れるような「デザイン」をも可能にした非金属素材の最先端だ。ただ、両者ともまだまだ価格の面で非常に高価であるというデメリットがある。
制動系のシステムは、従来はワイヤー経由でリムを挟み込む方式が主流だった。この方式もセンター・プル、サイド・プル、ランドナーというブレーキ機構とワイヤーの関係でそれぞれ分類があった。その後、Shimanoによってサイド・プル式を発展させた「Vブレーキ」が爆発的に広がり、MTB系ブレーキの主流となった。
下りを主体とするダウンヒル競技が人気となった頃から、自転車はモーターサイクルの方向へ形も技術も傾いていくことになった。先ずはサスペンション。フロント・サスはかなり前から開発されていたが、リア・サスは割りと最近メジャーになった物だ。はじめはフロント・サスをリアにも取り付ける、という方法でスタートしたが、競技用コースの難易度が飛躍的に困難となるのと同時に、非常なスピードで進歩していった。
フロント、リアともに開発の主眼は「ストローク量」にはじめは置かれた。益々カゲキになっていくコースにライダーの技術よりも早いテンポでストローク量は増えていった。最終的には200mmオーヴァーのストローク量が登場した。ストローク量が増加すると共にライダーの技術も進歩する。ここでライダー側からは、ストローク量よりも「ストロークの質」が要求されるようになった。プログレッシヴ・レートのバネやオイル、エア併用のダンピング・システムなどで、ライダーの好みに合わせた伸び縮みがセッティングできるようになった。ストローク量は、180mm前後に落ち着いた。
次がブレーキ・システム。はじめは、Vブレーキでスタートしたが、その後マグラ社が元々はトライアル系競技用に開発した、油圧のブレーキ(リムを挟み込む方式は変わらない)が効きの面で主流となる。油圧が採用された時点で、すでに「ディスク」は開発者やライダーの頭の中にはあっただろう。その後モーターサイクル業界から技術のフィードバックを受けて、ディスクはあっという間に主流の地位を占めた。
アマチュア選手へのフィードバックは置いておくとして、一般ライダーへのフィードバックではどうだろうか? 業界内の他分野からのフィードバックが面白い。現在主流となっている変速機は、前3段後9段である。これはつい最近で、その前は後が8段であった。ロードレースの世界では早くからリア9段化(フロント2段)が進んでいた。MTBでも、クロスカントリー競技では多様化するコース設定と、レース・スピードの高速化がリア9段を実現化した。さらには、リッチー社のクロスカントリーのエース・ライダーがロード出身ということもあり、この前2段後9段というロードの変速システムをMTBに持ち込んだ。
ディスク・ブレーキについては、悪天候時に効果を発揮するだろう。リムを挟み込む方式は、リムが地面と非常に近いため、水やドロ、ホコリの影響を受けやすい。その点ディスクは車軸付近にあるため、安定した制動力を発揮できる。この効果だけでも、一般へのフィードバックは重要だろう。
サスペンションは、ストローク量が増えると、漕ぎへの悪影響が出る。踏み込みの力をサスペンションが吸収してしまい、ペダルへの力の伝達にロスが生じるのだ。したがって、舗装路を主体に走ることを考えれば、前後100mm以下のストロークで十分だろう。乗り心地は抜群に良くなる。
車と違って、自転車は構造がシンプルだし、何より「人力」という特徴がある。進むための構造そのものの進化は既に止まってはいるが、乗り心地や走りを良くする機能の進歩はまだまだ続くだろう。
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